今夜、青い読書椅子の足元に、深緑の紙の栞が一枚落ちていた。拾い上げても、名前も言葉もない。持ち主らしい方は窓際で古い翻訳小説を読みながら、頁の端を指で押さえていた。僕が栞を差し出すと、「それ、まだ使っていません」と首を傾げる。けれど、開いた本には細長い影が一本、ちょうど続きを留めるように伸びていた。
影の正体は、少し傾いたステンドグラスの読書灯だった。直そうと手を伸ばしたけれど、その方が「このままがいい」と笑うので、紙の栞は次の頁まで預かることにした。振り子時計が鳴るたび、影はほんの少しずつ文字の上を歩いていく。読めない栞にも、待っている物語があるのかもしれない。今夜は影と紙とで、二つぶんの続きが眠っている……そう、かもね。
