今夜、窓際の青い読書椅子で、古い翻訳小説を読んでいる方がいました。傍らにはインク瓶ソーダ。グラスからこぼれた雫が真鍮の卓上をゆっくり進んで、開いた頁へ向かっていました。

声をかけるより先に、銀のトレイの縁でそっと受け止めました。雫は小さな句点みたいに震えて、それから布巾へ消えていきました。その方は顔を上げて「本も雨宿りするんですね」と、少し笑いました。

たしかに、雨は屋根の外にだけ降るものではないのかもしれません。冷たいグラスのまわりにも、読みかけの文章のそばにも、名前のない雨は生まれる。続きを読めるよう、乾いた栞を一枚お渡ししました。今夜の物語に句点はまだ早い……そう、かもね。