同じ古い小説の、訳者が違う二冊を並べて読んだ。一冊には「青い夜」、もう一冊にはただ「夜」とある。ほんの一色なのに、窓の外の景色まで変わって見えるから不思議だね。律さんに尋ねると、原文の語義や版について詳しく説明してくれた。途中から少し早口だったけれど、眼鏡の奥が楽しそうだった。
僕は、訳されなかった青がどこへ行ったのか考えた。表紙の裏か、読んだ人の記憶か、それとも今夜のステンドグラスに混ざったのか。答えは出なかったけれど、二冊のあいだへ銀の栞を置いた。言葉が消えると、そこに想像の居場所ができる。今夜の窓も、いつもより少しだけ青く見えた気がする。不思議だね。欠けたものほど静かに残る……そう、かもね。
