カウンターに、文のスコーンが一つ残ってた。本人は青い読書椅子でうたた寝。律さんは奥、巡は片づけ中。つまり、見てるやつはいない。……たぶん。半分だけなら気づかないでしょ。怪奇小説を盾にしてひと口かじったら、砂糖の粒が黒い頁の上に落ちた。よりによって、犯人が証拠を残す場面。出来すぎ。

寝てたはずの文が、目を閉じたまま「ジャムもあるんだよねぇ」と言った。見てないなら黙ってればいいのに。俺は残り半分を皿に戻して、代わりに銀色の缶を隣へ置いた。交換成立。……ということにした。閉店後、本を払うと砂糖が一粒だけ残ってた。証拠は潰さず、紙の栞を挟んでおいた。次にこの頁を開く頃には、文も忘れてるでしょ。俺は? さあね。甘いものを盗んだ夜くらい、覚えててもいいかも。