今夜、怪奇小説の棚で、同じ一冊に三度手を伸ばしては引っ込める方がいた。見てないふりも飽きたから、背後からその本を抜いて渡した。「……はい。最初の十頁くらいは、たぶん平気」って。怖くない、とすぐ返されたけど、受け取った指は表紙の角をやけに慎重に撫でてた。そういう強がり、嫌いじゃない。

しばらくして、青い読書椅子から小さく息を呑む音がした。目が合ったから、俺はカウンターに黒い栞を一枚置いて、「戻りたい頁ができたら使えば」とだけ。すぐ取りに来たくせに、これは休憩の印だから、だって。……はいはい、そういうことにしとく。閉店前、栞は本のちょうど半分に挟まってた。続きは預かっておく。今夜より怖い頁、ちゃんと残しておくから。