開店前、青いベルベットの読書椅子を整えていたら、座面と肘掛けの間から細い紙片が出てきました。昨夜、最後のお客様にお渡しした無地の栞です。真ん中に斜めの折り目が入り、端には鉛筆で小さな丸が三つ並んでいました。拾い上げたとき、私はまず折り目を伸ばそうとしました。司書長の机には、角の揃った新しい栞がいくらでもあります。傷んだ一枚をそのまま戻す理由は、見当たらなかったのです。新しい紙は適度に硬く、頁の間でも迷子になりません。いつもなら古いものを回収し、枚数を数え、次の席へ同じ向きに置き直します。けれど、紙を指で挟むと、折り目の内側だけが少し温かい色に見えました。真鍮のランプの光が、そこにだけ残っていたのでしょう。

昨夜の方は、閉店が近づいても一冊の薄い物語集を開いたまま、椅子に座っていました。読み終えたかどうかを尋ねた私に、「三度、同じところへ戻ってしまって」と笑ったのを覚えています。人差し指は頁の下端を押さえ、先へ進むとも戻るとも決めかねているようでした。急いで読む必要はありません、と答えながら、私は内心では頁番号を控えようとしていました。次にお見えになったとき、迷わず続きへ案内できるように。ですが、その方は番号ではなく、窓の外が少し明るく見えた瞬間を覚えておきたい、とおっしゃったのです。夜明けにはまだ早い時刻でしたから、街灯が雲に映ったのでしょう。それを訂正する代わりに、私は返事を一拍遅らせました。

紙片をカウンターへ運ぶ途中、振り子時計が九時を打ちました。ステンドグラスの読書灯はまだ消えていて、深緑の壁には書架の長い影だけが重なっています。私は薄い物語集を棚から取り、昨夜の椅子の脇へ置きました。表紙の角はきれいで、頁に挟んだ跡もありません。栞の丸は頁数の印ではないらしい。ひとつ目は濃く、ふたつ目は少し掠れ、三つ目だけが輪を閉じきらずに止まっていました。机の引き出しには校正用の鉛筆があります。試しに線を補うこともできますが、他人の書きかけに勝手な終止符を打つ気にはなれませんでした。活字の誤りを探すときなら見逃さない違いですが、誰かの手が残した印を読むのは、また別の仕事です。

ほどなく螺旋階段から足音がして、昨夜の方が現れました。椅子に本を見つけると少し驚き、それから私の手元の栞に目を留めました。「それ、置いていったんですね」。私は新しいものへ取り替えるつもりだったと告げましたが、その方は首を横に振りました。「このままがいいです。帰り支度をしながら、次はどこから読もうか考えて、折ってしまったので」。昨夜は本を返すとき、外套を腕に掛けたまま少しだけ椅子に座り直していました。あの短い間に生まれた折り目には、行き先があったらしい。私は伸ばしかけた指を引き、紙片をそのまま差し出しました。受け取る指先が、折れた山を確かめるように一度だけなぞりました。

お席へ案内すると、その方は本を開くより先に、栞の丸を私に見せてくださいました。最初の丸は、登場人物が扉を開けたところ。次は、扉の向こうの音がわかったところ。閉じていない最後の丸は、まだ言葉にできない場面なのだそうです。「気になって、何度も戻りました。でも、嫌な引っかかりじゃないんです」。その説明に私は思わず前のめりになりました。同じ段落へ戻るたびに印象が変わる文章では、直前の比喩よりも次の一文の省略が効いていて、語り手が何を言わないかによって扉の重さまで違って感じられるのです。気づけば、いつもの倍の速さで話していました。

私が息を継いだところで、その方は小さく笑い、「やっぱり、続きは今夜にします」と本を胸元へ寄せました。説明しすぎましたか、と尋ねると、いいえ、と首を振ります。「誰かもそこに引っかかるなら、もう少し座っていていい気がして」。私はそこでようやく、自分が答えを先回りして渡しかけていたことに気づきました。本の構造を解き明かすのは好きですし、正しい案内は私の務めです。まだ読んでいない結末を口にしなかったのは幸いでした。あの方は、扉の向こうの音を自分の耳で確かめたいのでしょう。今夜欲しかったのは、解説よりも、同じ一行の前で立ち止まることを許される時間だったのです。

しおりラテを運び、読書灯を点けました。栞と羽根ペンの模様を崩さないよう、受け皿を右手側へそっと置きます。温かなカップに指を添えると、その方の肩がわずかに下がりました。椅子の青い布地に琥珀色の光が落ち、折り目の影が開いた頁を短く横切りました。その方は丸のついた紙片を指の間で回し、結局、物語の途中ではなく、表紙の裏へ挟みました。「場所は覚えているから。これは、戻ってきた印にします」。私なら頁に対して直角に揃えるところを、斜めのままにしてあります。影も斜めのまま、紙の上を静かに移ります。指先が動きかけましたが、今度は止められました。

奥の書架を点検しているあいだにも、私は時折その椅子を見ました。頁はそれほど進みません。窓に映る読書灯と、紙をめくる手と、湯気が細くなるラテのカップ。ほかの席からは小さな匙の触れる音がして、階段の向こうでは新しいお客様を迎える声がしました。それでもあの一角には、頁を閉じても途切れない静けさがありました。時計の針がひと目盛り進んだころ、その方は一度本を閉じ、背表紙を掌に載せて考え込みました。私は声をかけず、棚の端から少し出ていた一冊を戻しました。背の高さをきちんと揃えると、通路の奥まで見通せます。整えるべきものと、触れずに預かるもの。その境目が、今夜はいつもよりはっきりしていました。

お帰りの前、その方は栞の三つ目の丸を鉛筆で閉じました。閉じた輪の横に、もうひとつ小さな点が増えています。「ここから先は、また別の日に」。私が本を受け取ると、栞は持ち帰ってもいいかと尋ねられました。もちろんです、と答え、新しい栞を一枚だけ添えました。渡すとき、角が鞄の金具に当たらないよう紙の向きを変えます。自分でも少し可笑しくなるほど、いつもの癖は抜けません。古い紙片を守るために使うのもよいでしょう、と言うと、その方は二枚を重ねず、それぞれ別のポケットにしまいました。次に会うとき、どちらがどんな形になっているか。そんな些細なことが楽しみになるとは、少し意外でした。

閉店後、読書椅子の肘掛けを拭くと、先ほどの光の線はもうありませんでした。代わりに、真鍮のランプの縁が磨いた布に小さく映ります。机の上には、角の揃った栞がまだ何枚も残っています。必要な方には明日もお渡ししますし、折れたものを見つければ状態も確かめます。ただ、まっすぐに直す前に、その折り目がどこへ向かっていたかを聞いてみようと思います。一冊の途中で足を止める夜にも、続きへ戻るための印は残せる——と、私は思いますよ。