今夜、返却された本を棚へ戻していると、薄い一冊だけ、小口がわずかに飛び出していました。収まりの悪い紙を見ると、そのままにはしておけません。銀縁の眼鏡を押し上げ、カウンターの灯りの下へ運びます。布張りの表紙は乾いた砂に似た色で、開くと巻末に折り込みの地図が付いていました。海辺の町を舞台にした物語です。前の方が畳む際に、紙の端を少しずらしたのでしょう。傷みはなく、折り目に沿って戻せば済むことでした。ところが、作業を始める直前、螺旋階段からゆっくりと足音が上がってきたのです。本には薄紙を一枚挟み、私は顔を上げました。真鍮の扉の取っ手に、まだ外の冷たさが残っているような夜でした。

いらした方は椅子へ向かわず、まず書架を見渡しました。「前に読んだ本を、もう一度見たくて。題名が出てこないんです」とおっしゃいます。思い出せるのは港と、黒い猫。それから、どこかに階段があったような気もする、と。私は手元の一冊へ目を落としましたが、すぐに差し出すことは控えました。似た条件の本は何冊もありますし、たまたま触れていた本へ話を寄せるのは、選書の手順として感心しません。「猫は物語に登場しましたか。それとも挿絵に」と尋ねると、その方は首を傾げました。しばらく考えた末に返ってきたのは、「待っている猫だったと思います」という答えです。検索の手掛かりとしては曖昧です。ただ、その言い方だけは、妙にはっきりしていました。

私は候補を三冊運び、青いベルベットの読書椅子のそばにある卓へ並べました。一冊は船乗りの話、一冊は海沿いの家の話、最後が先ほどの本です。「こちらは本文の途中に挿絵があります。こちらは章の扉に。そしてこの本は、巻末の地図を読む前と後で、登場人物の遠回りの意味が変わる構成でして、特に市場から波止場へ向かう道が——」そこまで話して、相手の指がまだ最初の表紙に触れていることに気づきました。説明が二冊ぶん先へ進んでいましたね。「失礼しました。まずは、ご記憶の景色から」と言い直すと、その方は少し笑いました。私は本の背を揃え直すふりをして、言葉の速度を落としました。好きな本の仕組みを話すときほど、相手の頁を確かめる必要があります。

その方が選んだのは、砂色の表紙でした。題名ではなく、布に残った細かな凹凸を指の腹で確かめて、「この手触りだったかもしれません」と言います。私は灯りの届くカウンターへ本を移し、巻末を開きました。地図には細い運河と市場、それに湾を囲む長い堤防が描かれています。ところが、猫はいません。私は一度、ほかの候補に戻ろうかと考えました。そのとき、隣から「もう少し、港が広かった気がします」と声がしました。見直すと、右端にある線は紙の縁ではなく、内側へ折られた細い一面でした。先ほど直そうとしたずれに気を取られ、私は地図がどこまで開くかを確かめていなかったのです。紙を揃えることと、本を見ることは、今夜の私の手元では別々になっていました。

折り返しを引っ張らないよう、私は一度、本を少し閉じました。綴じ目にかかる力を抜き、地図の下へ掌を入れて、畳まれた順番を逆に辿ります。「こちらのお冷だけ、少し離していただけますか」。お客様が両手でグラスを持ち上げるのを待って、最後の一面を開きました。薄い紙が静かに鳴り、カウンターの上に港が広がります。隠れていたのは、小さな修理工房と、その裏手から海へ下りる階段でした。黒い猫は階段の手すりに座っていました。大きさは私の小指の爪ほどです。尻尾を足元へ巻き、船のない水面を見ています。「いました」と、その方が囁きました。探すあいだ何度も表紙を撫でていた手が、そこで初めて止まりました。私は返事を急がず、紙の浮いた角をそっと支えていました。

地図を開いたまま眺めていると、巡君が注文のしおりラテを運んできました。「見つかったんすね」と、いつもより控えめな声です。先に私の顔を見たので、声量についての注意を予測したのでしょう。私は頷き、本から離れた位置を指しました。白い泡の栞が揺れずに卓へ着くと、今度は彼も地図を覗き込みます。「この猫、魚屋のほうを見なくていいんすか」。お客様が笑い、確かに、とおっしゃいました。市場には小さな魚籠まで描いてあります。私は猫の向きから防波堤の先を辿り、そこで初めて、海上に点ほどの帆があることに気づきました。巡君はもう次の卓へ向かっていましたが、その背へ「よいところを見ましたね」と伝えました。振り返った笑顔に合わせて、エプロンの端が小さく跳ねました。

お客様は、本のどこにこの階段が出てきたのかを知りたがりました。私は該当する章を探し、地図を傷めないよう別の栞で位置を示しました。主人公が荷物を届ける場面です。市場からなら橋を渡るほうが近いのに、わざわざ工房の裏を通っている。本文では、その理由を説明していません。「以前は、道に迷ったのだと思っていました」と、その方は言いました。私は階段の途中に描かれた小さな窓を指します。「ここで誰かに会いたかった、とも読めます。ただ、確かめるにはこの前の会話をもう一度」。続けかけて、私は口を閉じました。その方はすでに頁を戻し始めていたからです。答えを渡すより先に、確かめたいことが生まれたのでしょう。私は地図を畳む順序だけお伝えし、本を読書椅子へ運びました。

カウンターへ戻ってから、私はこの本の紹介カードを出しました。そこには自分の字で、港町を歩く配達人の物語、とだけ書いてありました。間違いではありません。しかし今夜の探索には、ずいぶん頼りない記録です。余白に赤鉛筆で挿入の印を付け、巻末に折り込み地図あり、と追記しました。小さな校正記号を置くと、散らばっていた仕事が一箇所へ収まる感じがします。猫の位置も書きかけましたが、それは案内用の手控えに移しました。紹介カードで手すりの猫まで教えてしまうと、あの最後の一面を開く楽しみが減ってしまいますから。新しいカードの清書を終えた頃、奥の椅子から一度だけ、紙を大きく広げる音が聞こえました。今度は地図が、ちゃんと最後まで開いた音でした。

お帰りになる前、その方は本を閉じて両手で差し出しました。「猫が待っていたのか、私がまた見たかっただけなのか、よく分からなくなりました」。私は受け取りながら、巻末の収まりを確かめました。紙の端はきれいに揃っています。「次に読むときは、違うものが見つかるかもしれません。猫のことを覚えていたおかげで、今夜はここまで来られましたね」とお答えしました。その方は少し考え、次は窓のある家を読んでみたい、と言いました。今度の希望は、先ほどより具体的です。私は最初に並べた別の一冊を示し、次の夜のために場所をお伝えしました。扉を開ける手が、来たときより軽く見えました。階段を下りる足音が遠ざかるまで、私は本を抱えて立っていました。

閉店後、読書灯を一つずつ消す前に、あの地図をもう一度開きました。お客様のために支えていた紙を、今度は自分の目でゆっくり辿ります。工房の窓、手すりの猫、遠い帆。赤鉛筆は脇に置いたままです。今日の失敗を直すなら、急いで候補を絞る前に一呼吸、と手控えに書くこともできます。けれど今は、紙が掌に載る軽さを覚えておこうと思いました。振り子時計が鳴り、深緑の壁から灯りが一つ退きます。私は地図を折り、布の表紙を撫でてから、棚の決まった位置へ戻しました。朝が来て私も書架へ帰るまでには、まだ静かな時間があります。今夜見つけた港を、もう少し胸の内に広げていてもよいでしょう。畳めることと、急いで畳むことは別です——と、私は思いますよ。