今夜、カウンターでお預かりした感想カードに、一行だけ不自然な空白がありました。文章は端正で、誤字もありません。ならばこの改行は記入漏れでしょうか。赤鉛筆を当てかけたところ、書いた方が「そこだけ、息をつきたくて」と小さく教えてくださいました。なるほど。余白もまた、文章の呼吸を整える校正記号なのかもしれません。少々、先走りましたね。
その後は線を引かず、カードを真鍮の読書灯の下へ戻しました。灯りが空白を淡く照らすと、前後の言葉がかえって近く見えます。振り子時計が鳴り、店内の頁をめくる音まで止まった瞬間、その一行だけが静かに息をしていました。直すことだけが校正ではありません。残すべき沈黙を見極めるのも、司書長の仕事です。赤鉛筆を置く判断も、時には正しい——と、私は思いますよ。
