今夜、返却台の上で小さな羽音がしました。見ると、琥珀色の蛾が開いた本の余白にとまっています。巡君が声を上げかけたので、唇に指を当てて制しました。驚かせれば、薄い頁を傷めかねませんから。
栞を二枚、少し間を空けて差し出すと、その小さな客は迷うように触角を動かし、やがて片方へ移りました。窓辺まで運び、真鍮の留め金を外すと、羽はランプの光を一度だけ返して夜へ消えました。戻ると、先ほどの方が「読まずに帰ってしまいましたね」と笑っていました。いいえ、あれはきっと、余白だけを読みに来たのでしょう。本文だけが本ではありません。紙の白さも、行間も、沈黙も、物語を支える大切な部分です。……少々説明が長くなりました。羽音ひとつにも読書の作法はある——と、私は思いますよ。
