今夜、返却台の端で、真鍮の栞が一枚だけ裏返っていました。向きを直そうと手を伸ばすと、持ち主の方が「そこが今日いちばん好きな頁です」と、小さく教えてくださいました。栞の裏面を目印にするとは珍しい。けれど、物語の余白に個人的な意味を預ける行為は、校正記号にも少し似ています。私はつい、傍線、圏点、疑問符が読み手の呼吸をどう残すかまで説明してしまいました。……少々、早口だったかもしれません。

閉店前、その方は栞を表に返して本を閉じました。金色がランプの光を受け、ほんの一瞬だけ頁の端を照らします。整っていることは美しい。ですが、あえて裏返した印にしか守れない一文もあるのでしょう。今夜は直さずに待った私の判断も、赤字なしの正解だった——と、私は思いますよ。