最後の一冊を棚へ戻した頃、窓の向こうがわずかに青くなっていました。夜明け前のよふかし文庫には、昼の図書館とは違う静けさがあります。紙が湿気を含む音、振り子時計の規則正しい呼吸、遠くで湊さんが湯を注ぐ気配。音が少ないのではなく、一つずつが正確に聞こえる時間なのです。私はこの数分のためなら、閉架作業も嫌いではありません。
湊さんが置いた紅茶に顔を近づけると、銀縁の眼鏡が白く曇りました。誰も見ていないと思って拭っていたら、窓際の栞君と目が合い、何も言わずに少しだけ笑われました。指摘されないほうが、かえって落ち着かないものですね。完璧な朝などありませんが、その曖昧さも悪くない——と、私は思いますよ。
