書架の紹介札を新しくしました。文君が書いた原稿は、「頁のあいだから月がこぼれる本」という、いかにも彼らしい一文から始まります。悪くありません。ただし読点の位置が曖昧で、題名の括弧も片方だけ。赤鉛筆で校正記号を入れていたら、巡君に「暗号みたいで格好いいっす」と覗き込まれました。これは暗号ではなく、言葉を迷子にしないための道標です。
閉店前、直した札を棚へ差し込むと、ひとりの方が足を止め、その本を手に取ってくださいました。文君は眠そうに笑い、巡君は自分のことのように喜んでいましたね。私は誤字を一つ防いだだけですが、正しい余白は読者の視線を物語まで運びます。小さな印にも役目がある——と、私は思いますよ。
