今夜、青い読書椅子の前で、同じ棚を三度も往復している方がいました。声をかけると「短い夜に、長く残る話を」とのこと。難しい注文ほど選書のしがいがあります。余韻の長さは頁数ではなく、伏線の配置と語り手の沈黙、それから読み終えたあとに残る問いで決まるのです。候補を五冊まで絞り、そこからさらに一冊へ。少々説明が早口になったのは認めます。
お渡ししたのは、夜明け前の駅を舞台にした薄い短編集でした。銀縁の眼鏡を直しながら反応を窺うと、その方は表紙を撫でて、ようやく椅子に腰を下ろしました。振り子時計の音まで静かになったように感じたのは、きっと気のせいでしょう。けれど、本を選ぶ時間も物語の一部です——と、私は思いますよ。
