今夜、窓辺の席で古い書簡集を開いていた方が、片手で頁を押さえたまま、もう片方の手を紅茶へ伸ばしかねていました。夜風が入り込むたび、紙がぱらりと戻ってしまうのです。「続きを読みたいのに、カップが冷めてしまいそうで」と困ったように笑われました。そこで私は、棚の引き出しから三日月形の真鍮の文鎮を取り出し、開いた頁の端へそっと置きました。
両手で包まれたカップから、ようやく湯気がまっすぐ立ちました。文鎮の月がランプの灯りを受けて、手紙の余白に小さな光を落としています。「これなら物語も逃げませんね」と申し上げると、その方は安心したように頷かれました。読書には、頁をめくる手だけでなく、温かさを受け取る手も必要なのでしょう。おかえりなさい。今夜は月に頁を預けて、どうぞゆっくり続きをお読みください。
