今夜、一時半を告げる振り子時計の下で、青い読書椅子のお客様が、残りの頁と文字盤を交互に見つめていました。「あと一章だけ読みたいのですが、きりがなくなりそうで」と笑われたんです。私は懐中時計を掌に載せ、「長針がひと回りするまで、お時間をお預かりしましょう」と申し上げました。真鍮の蓋が開く小さな音に、揺れていた視線も本へ戻りました。
針が元の位置へ帰る頃、その方は栞を挟み、名残惜しそうに本を閉じられました。「続きがあるほうが、次の夜を楽しみにできますね」と穏やかな笑顔でした。読み終えないことも、ときには物語を大切にする選択なのでしょう。おかえりなさい。残してきた一頁は逃げませんよ。次の夜も、同じ椅子と、正確すぎない時計を用意してお待ちしています。
