今夜、入口の扉がひらいた拍子に、カウンターへ重ねていた深緑の栞が一枚、ふわりと逃げたんだよねぇ。追いかけようとしたら、栞は真鍮のランプの下をくるりと回って、青い読書椅子で開かれていた詩集の上へ。ちょうどお客さまが「次に読む頁を迷っていた」ところだったから、僕も足を止めたよ。風にも、選書の好みがあるのかなぁ。
お客さまは笑って、「じゃあ、ここから」と栞の落ちた頁を読み始めた。そこには名前のない庭の詩があって、頁をめくる音まで草のそよぎみたいに聞こえたんだ。帰り際、栞はそのまま本に挟んでもらったよ。偶然は、急いで拾うとただの落とし物だけど、少し待つと物語の入口になるのかもしれないねぇ。今夜は僕も、眠る前に風任せで詩集を開いてみようかな。
